メッセージを受け止める力・伝える力を磨こう

 

木村 富美子(通信教育部・助教授)

 

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。大学生として高等教育を受ける機会を得た皆さん方は、いま学習・研究活動の入口に立ち、あらたな一歩を踏み出そうとしているところだと思います。大学での学習と高校までの学習との違いについては、ガイダンスなどで様々に感じることがあると思いますが、大きな違いの一つとして、大学ではレポートを書くことが多い点が挙げられます。良いレポートを書くためには、レポートとして要求されていることを理解する力と、理解したことを文章で示す力が必要になります。これらの力を身につけ、磨いていく上で、読書が大いに役立ちます。

 

大学でのレポートの目的は、学習成果の確認、論文を書くための準備、などが考えられますが、ここでは学習成果の確認を中心にお話します。大学で学問を習得するためには、授業に出席して講義を受けるだけでは十分ではありません。授業前の予習、授業中の学習、授業後の復習の3段階の学習を通じて、学習内容を自分の中に定着させ、自己の知識構造を再編成し、学習成果を積み重ねていきます。教員は授業中の質問・疑問を通じた応答、レポート、試験などを活用して学生の理解度を確認しながら授業を進め、学習指導を行います。

 

教員が学生の理解度の確認を目的としてレポートを課す場合、学生は自分の理解度を、文章で証明することが求められます。

この場合、

1.要求を理解する(教員の意図を理解する=教員のメッセージを受け止める)こと、

2.要求に対応して行動する(文章により理解度を示す=理解した内容を伝える)こと、

の2点が重要なポイントです。

 レポート作成のステップは、大まかには次のように分けられます。

1.与えられた課題を理解すること、

2.必要な情報を探し・集め・検討し、取捨選択する(材料を揃える)こと、

3.集めた情報(材料)を必要に応じて処理し、これらをもとに論理を組み立てること、

4.組み立てた論理をもとに文章を書くこと、

となります。

 

 すなわち、教員の説明、教科書、参考図書などにより課題の内容を理解します。課題を理解すると、必要な情報を探すステップに入ります。この段階で、教科書や参考図書をよく学習し、必要な情報を探します。読書の習慣がついていない人にとっては、教科書や何冊もの参考図書を読み内容を理解することは、骨の折れる作業かもしれません。また、インターネットを使っての情報検索も可能ですが、見つけた情報が採用できる情報か否かは、検索した内容を読んでみなければ決められません。情報を探す目的が明確であれば、集めた情報を採用するのか、そうでないのかの判断基準も明確になります。このようにして材料が揃うと、必要に応じて情報処理を行い、レポートの論理を組み立てます。レポートの組み立て方は、この文章の最後に紹介する図書を参考にしてください。最後に、組み立てた論理をもとにして、文章を書くとレポートが完成します。

 

最近の脳科学の研究によると「何かをアウトプットしようとして自分でものを考えるときにだけ思考回路ができる」注)そうです。つまり、「発言、行動していると脳が刺激されて、新しい発想も生まれやすい」注)とのことです。また、「人間は新しいことを経験するときに能力が大きく伸びる」注)ともいわれています。経験には直接経験(自分の経験)と間接経験(他人の経験)とがあります。そして他人の経験を知るための有力な方法が読書です。

 

すなわち、読書は著者(他の地域・他の国の人、他の時代の人)との対話です。著者は文章でメッセージを伝えようとします。私たちは読書を通じて著者のメッセージを受け止めます。しかし、読んだだけではインプットのみの受身の行動です。読んだ内容について、友人と意見を交換したり、ノートに整理したりすることは、アウトプットしようとする行動です。読書で得た知識・情報をもとに、自分でものを考え、発言、行動して行くことを通じて、新しい発想が生まれると、価値の創造へとつながります。以上のことから、大学でのレポート作成は自己形成のための重要な役割を担う学習であるといえます。

 

最後にレポートを書くときの参考図書を数冊紹介します。レポートを書くときのルールや文献の探し方については、小笠原善康『大学生のためのレポート・論文術』(講談社現代新書、2002)に詳しく書かれています。そして、木下是雄の以下の2冊を推薦します。文系学生向けには『レポートの組み立て方』(ちくま学芸文庫、1994)、工学部の学生向けには『理科系の作文技術』(中公新書、1981)です。図書館を大いに活用して幅広い教養と学問の成果とを身につけ自己を築いてください。

 

注 草間俊介・畑村洋太郎『東大で教えた社会人学』文藝春秋社、2005、pp.117-119.